単声書簡

個人という灯台から

ダビデ王 King David

King David

               Walter De La Mare

 

King David was a sorrowful man:
No cause for his sorrow had he;
And he called for the music of a hundred harps,
To ease his melancholy.

They played till they all fell silent:
Played-and play sweet did they;
But the sorrow that haunted the heart of King David
They could not charm away.

He rose; and in his garden
Walked by the moon alone,
A nightingale hidden in a cypress-tree
Jargoned on and on.

King David lifted his sad eyes
Into the dark-boughed tree-
''Tell me, thou little bird that singest,
Who taught my grief to thee?'

But the bird in no wise heeded
And the king in the cool of the moon
Hearkened to the nightingale's sorrowfulness,
Till all his own was gone.


〈訳詩〉


ダビデ

               ウォルター・デ・ラ・メア

 

ダビデ王は悲しみに暮れた人
理由のない悲しみを抱えていた
彼は100人の竪琴弾きを集めた
憂鬱症を音楽で癒すために

竪琴は奏でられた 沈黙を埋めるように
何度も 何度も やさしい音色で
だが悲しみは ダビデ王の心を掴んだまま
彼に笑顔は戻らなかった

彼は立ち上がると
ひとり月の光に照らされた庭を歩いた
糸杉の木に隠れたナイチンゲール
わけのわからない言葉で鳴いた

ダビデ王は悲しい目を上げて
木の暗がりに向かって言った
「教えてくれ、歌っている小鳥よ
誰がきみに伝えたんだ 私の苦しみを」

だが 鳥には言葉がわからない
ひんやりとした月の光のなかで
王はナイチンゲールの悲しみを聴いた
彼の悲しみが すべて去るまで

 

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ダビデ王とは、やはり旧約聖書で伝えられるダビデのことなのだろうか。
あのダビデ王は、サウルのメランコリーを竪琴で治した。
その彼が、音楽でも治らない悲しみに苛まれていたとは。

ここでのメランコリーは今でいう、うつ病に近い。うつは理由もないのに涙が出てくるという。まさにそれだ。

日本でも震災の直後、被災地でチャリティコンサートをしよう、と立ち上がる音楽家は大勢いた。
だが本当に苦しいとき、人は音楽を聴くことができるだろうか?
(チャリティコンサートを否定しているわけではないので悪しからず)
ダビデ王のうつは、たくさんの竪琴弾きに音楽を奏でさせても癒せなかった。
彼を癒したのは、自然に生きるたった一羽の鳥。
ナイチンゲールの「わけのわからない言葉」が、ダビデ王にはわかった。それは自分と同じ悩み、同じ孤独だったからだ。
王の悩みはsorrowとして語られるが、王自らの台詞だけgriefとある。griefは非常に強い悲痛を意味する。詩の語り手、読み手にさえ、王の悲しみを心からは理解できない。
同じ苦悩を知る者だけが、同じ苦悩を癒せる。

ナイチンゲールは夜に鳴くことからか墓場鳥と呼ばれ、不吉の象徴だった。
また糸杉(cypress)は、キリストが磔にされた十字架が糸杉だったという説があり、死と深く関係する。シェイクスピアの〈十二夜〉にも、「来たれ死よ、糸杉の棺に私を横たえさせてくれ」という箇所がある。
王の庭のなかには“喪”が匂う。メランコリーを癒すのは、ひょっとすれば死なのかもしれない。
また最終連のみKing Davidではなくthe kingと語られることも意味深である。
名前は地上において持つもの。それを失うということは...。その謎めいたところに、
詩人デ・ラ・メアの幻想・怪奇小説家の面が垣間見える。


この現代にも通ずるうつと癒しの詩に音楽を書いたのは、ハーバート・ハウエルズ(Herbert Howells)。20世紀英国の作曲家で、特に彼の宗教合唱作品はたいへん美しい。


King David - Howells

この歌曲「ダビデ王 King David」も、ピアノで語られる竪琴やナイチンゲールのモチーフが、歌の語り口と絶妙なアンサンブルを奏でる。音楽という喧騒と夜の静寂の対比が、美しい流れのうちに綴られる。